ROIC/WACC業界分析レポート

【ROIC/WACC分析】医療用医薬品業界





業界ディスクリプション 




・概要 
 医療用医薬品業界の製品は、先発医薬品(新薬)と後発医薬品(ジェネリック)に大別される。日本製薬工業協会によると、先発医薬品として実際に販売されるには厳しい審査を潜り抜けなければならない。フェーズ1として基礎研究(2~3年)、フェーズ2として非臨床試験(3~5年)、フェーズ3として臨床試験(治験)(3~7年)があり、最終的には承認申請と審査(1~2年)がある。新薬開発において、実際にフェーズ1からフェーズ3に到達する確率は3万分の1と言われている。そのため新薬開発には莫大な費用がかかり、失敗した場合に投資費用を回収できないケースも多い。先発医薬品を開発する企業は、新薬開発におけるこのようなリスクを回避するために常にパイプラインと呼ばれている新薬開発のリストを一定数保ち続けなければならない。

・市場規模
 IQIVAによる「2017年薬品市場統計暦年」によると、国内の医薬品の市場規模は10,514,878(百万円)で前年比は1.0%減である。この成長率が減少に転じている理由として、薬価改定による薬品の値下げ、特許切れによるジェネリックの拡大が挙げられる。これらの理由により今後も、少子高齢化による新薬のニーズは高まりに関わらず、この減少傾向は続くと思われる。米国研究製薬工業協会は2025年までに日本国内市場は30%減となるとの声明を出している。

・業界の現状
 時代が進むにつれて新薬を開発する難易度が上がってきている。業界全体は成熟期にあるといえよう。先発医薬品においては国内大手5社(武田薬品工業、アステラス薬品工業、第一三共、エーザイ、大日本住友製薬)の寡占化が進む可能性を孕んでいる。また、1990年代後半に開発された新薬の特許権(ロイヤリティー)が切れてきており(2010年問題)、その収入が見込めなくなった。
 さらに新薬開発の難易度の上昇により、M&Aによる新薬開発の時間買収(パイプラインの補充)を行う企業が増加している。国内最大手の武田薬品工業は、17年2月にアメリカのアリアド・ファーマシューティカルズを、18年5月にはアイルランドのシャイアーを買収した。
 この業界が成熟した現状において、パイプラインを補充することができない企業などは撤退を余儀無くさせられるだろう。

・医療制度改正の影響
 少子高齢化の進行により医薬品の需要が高まると思われ、それに応じて膨らむ社会保障費の圧迫を抑制するために、薬価の価格が引き下げられている。本来は2年に1度行われるが、2018年から2020年までは全品目において薬価改定が行われる見通しだ。これは医療用医薬品業界の売上に大きく影響するだろう。

・今後の展望 
 ここまで述べてきた特許権切れ、新薬開発の難易度の上昇、薬価改定などにより、これまでのパイプラインを補充することに尽力するビジネスモデルは転換を求められるだろう。M&Aによる一時的なパイプラインの補充には限界があり、好調となったとしても長期的な視点に立てば、新薬開発の難易度は上昇し続け、また薬価改定により開発費用やM&Aの費用の採算が合わなくなるため、いずれはこのビジネスモデルは破綻するのではないだろうか。今後は「選択と集中」を求められると推測する。新薬開発、薬品製造に特化した、あるいは特有の病気に特化した事業に転換する企業も現れるだろう。 




 ROIC/WACC業界分析 



 上記の図表のY軸は、企業価値の時価(Market Value)と簿価(Book Value)を比較した数値である。X軸は、ROIC(投下資本利益率)/WACC(資本コスト)である。日本の全上場企業を調査すると図表の直線Y=(X-1)+1に収束する。企業が目指すべきは、資本効率性を意識したROIC経営により、X(ROIC/WACC)を大きくし、適切なIRによってY(時価総額/株主資本)を大きくしていくことである。 

 医療用医薬品業界のROIC/WACCと企業価値の分析によると、全体的にROIC/WACCは低めの数値であり、時価総額も理論的な時価/簿価の推計値の割合よりも下回っている。しかし、中では塩野義製薬(4507)がROIC/WACC=4.8と抜きんでている。次いで、ビオフェルミン製薬(4517) の3.5である。
 
 ROIC/WACC(横軸)<1の企業は、WACC(資本コスト)がROIC(投下資本利益率)を下回っている。これは、株主が求める期待収益率/資本コストを上回ることで自己資本に加算される付加価値を生み出していないということである。これらの企業は、早急に自社の資本コストを求め、それを上回るROICを生み出す改善努力が必要である。( 詳細は下記に記載) 

 ROIC/WACC(横軸)>1ではあるが、図表の線よりも下に属する企業は時価総額が理論的な企業価値の推計値よりも下回っているといえる。医療用医薬品業界の企業は、ほとんどがROIC/WACC>1になっているものの、株価が理論的な株主価値の推計値を下回っている状況である。まずは、自社の資本コストを求めたうえで、ROICの向上に努めつつ、資本コストとROICの比率のアピールを含めたIRが必要である。 




ピックアップ



 〇事業内容 
・医療用医薬品
高コレステロール血症治療薬「クレストール」、高血圧症治療薬「イルベタンファミリー(イルベタン、アイミクス、イルトラ)」、抗うつ薬「サインバルタ」を含む新薬を戦略8品目として情報提供
・海外子会社 / 輸出
北米では「Shionogi Inc.」、欧州では「Shionogi Limited」、アジアでは「C&O Pharmaceutical Technology Holdings Limited」「Beijing Shionogi Pharmaceutical Technology Limited」「Taiwan Shionogi & Co., Ltd.」「Shionogi Singapole Pte. Ltd.」を展開
・製造受託
初期開発から商用生産(原薬~製剤・包装)まで、適切な品質を維持できる製品の製造法を開発、国内外の規制に適合した施設および体制で、治験用原薬製造および治験薬製造を展開
・ロイヤリティー収入
世界トップクラスの研究生産性の実現およびグローバル市場への迅速な医薬品の提供を目指して研究開発活動を進めるとともに、アカデミアやベンチャーとの連携を通じて将来の医療ニーズを見据えた医薬品シーズ、製品および技術の導入

 塩野義製薬(4507)は、感染症と疼痛・神経に注力している。2017年度はHIVフランチャイズの売上増などによるロイヤリティー収入増加、ドルテグラビル原薬の受託拡大による製造受託の増加のため、営業利益(前年比6.5%増)、経常利益(12.7%増)、当期純利益(29.8%増)となっており、それぞれ過去最高を達成している。2018年度も引き続きロイヤリティー収入を収益基盤として、新パイプラインの導入と新製品の売上拡大を軸に持続的な成長を目指している。


〇事業内容 
・医薬品、医薬部外品、食品の製造並びに販売
医薬品、指定医薬部外品、動物用医薬品、農薬その他薬品類、化粧品、医療機器、食品、飲料品、食品添加物、飼料、飼料添加物の製造および売買

 ビオフェルミン製薬(4517) は、乳酸菌に着目した製品を製造しており、その面で他の製薬会社との差別化を図っている。株式の63.93%は親会社である大正製薬ホールディングスが所有している。2018年度3月期決算では、一般用製品は主力の「新ビオフェルミンS」が前期比の3.7%増となるなど、医療用医薬品は主力の「ビオフェルミン錠剤」が前期比の3.4%増となり、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益は全て前期比よりも大幅に改善している。今後も、商品の開発・改良に尽力し、生菌製剤市場でのシェア拡大を目指している。



ROIC経営導入支援モデル 




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【執筆】 
アナリスト 小林祐士 

ジェイ・フェニックス・リサーチ株式会社(J-Phoenix Inc. ) 

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